論文の書き方 - 岩波新書/清水幾太郎 (著)

論文の書き方 (岩波新書)
本書は、哲学、思想、文化、社会科学における「知的散文」をターゲットとしており、自然科学系論文または報告書を念頭に置いていないと、著者自身があとがきで述べているので、私が日常書いている分野を直接網羅しているわけではない。確かに、理系の文書には、それなりの作法や留意すべき点がある。しかしながら、本書は「論文の書き方」というより、外国語にも造詣の深い著者が日本語の特長を的確に捉えていることが興味深い。特に、『曖昧な「が」を警戒しよう』という視点は大変参考になった。他にも「短文からはじめよう」、「日本語を外国語として扱おう」など、大変示唆に富んだ内容である。
本書は、1959年の出版の為、ワードプロセッサやインターネットとは無縁であり、現在からみると多少時代を感じさせる内容もあるが、現在まで重版され読み継がれていのは、この方面の名著と言っていいのだろう。岩波新書・青版ということで覚悟はしていたが、語彙や用句が難解*1で読み始めの段階で速く読み進めることができずにもどかしく感じるかもしれないが、直に著者の文体に慣れるので心配はいらない。「文書読本」、「論文の書き方」の類の本をたくさん見つけることができるが、そのなかでも異色に一冊であり、マニュアル本のようにすぐに役立つという内容ではないが、読後に必ずや得られるものがあると思う。

*1:読めない漢字が多いのは事実だが、拘泥せずに読み進めることが重要だ。気になれば後で調べればよい。